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仙台高等裁判所秋田支部 平成5年(行コ)1号 判決 1997年10月29日

控訴人・附帯被控訴人(原告) 東日本旅客鉄道株式会社

被控訴人・附帯控訴人(被告) 秋田県地方労働委員会

補助参加人 国鉄労働組合秋田地方本部

主文

一  原判決を取り消す。

二  控訴人の本件訴えを却下する。

三  訴訟費用は、補助参加により生じた費用も含めて、第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の申立て

一  控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人が秋地労委昭和六二年(不)第二号―一事件について平成元年九月二六日付けをもってした救済命令を全部取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人及び補助参加人の負担とする。

二  附帯控訴の趣旨

1  原判決中、被控訴人敗訴部分を取り消す。

2  (一) 右取消部分にかかる控訴人の訴えを却下する。

(二) 右取消部分にかかる控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件における当事者の主張と争点は、当審における当事者の主張等に鑑み、左記のとおり付加訂正するほかは、原判決の「第二 事案の概要」(原判決三枚目表七行目冒頭から二四枚目裏七行目末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

「一 当審における控訴人の主張

1  原判決は、本件団体交渉事項七号と八号を区別し、七号については秋田支店における団体交渉権限外の事項であるが八号については秋田支店固有の事項であり支店の団体交渉権限内の事項であるとし、八号について控訴人が団体交渉に応じなかったことには正当な理由がないとして不当労働行為の成立を認めたが、七号も八号もともに出向の根幹をなす全社的な交渉事項であって支店の団体交渉権限外の事項であることが明らかであり、これらの事項について控訴人が支店における団体交渉を拒否したことには正当な理由があるから、原判決には事実誤認がある。

2  原判決は、本件団体交渉事項八号のうちの説明を求める部分や苦情処理手続に関する部分についても秋田支店における団体交渉事項であるとしたが、これらが支店における団体交渉事項でないことは明らかであるから、原判決には事実誤認がある。

3  本件救済命令は、本件団体交渉事項七号及び八号について将来の出向までも含めて包括的に団体交渉を命じたものである点で、極めて異例のものであるが、本件命令発令当時、補助参加人が救済を申し立てていた出向組合員はすべて控訴人の職場に復帰していたから、そもそも補助参加人には右時点で既に救済の利益はなく、本件命令のような包括的な命令を発する必要性はなかったものであり、してみると、本件命令は労働委員会がその裁量を逸脱してなしたものであって違法というべきである。

4  以上によれば、本件命令は、本件団体交渉事項七号について団体交渉を命じた部分のみならず、八号について団体交渉を命じた部分についても違法であって取り消されるべきであり、控訴人の請求はすべて認容されるべきであるから、原判決中、控訴人敗訴部分(本件命令のうち本件団体交渉事項八号についての団体交渉を命じた部分の取消請求を棄却した部分)は取り消されるべきである。

二 当審における被控訴人の主張

1  原判決は、新団体交渉事項は、本件団体交渉事項と相当異なっているから、新団体交渉事項について団体交渉がなされたからといって、本件団体交渉事項について団体交渉がなされたものとみることはできず、控訴人に本件命令を取り消す利益が失われていないと判断した。

しかしながら、新団体交渉事項は、本件団体交渉事項にかかる団体交渉申入れが拒否されてから新団体交渉事項にかかる団体交渉が行われるまでの間の労使関係の変化に対応して、本件団体交渉事項を分化発展させたものであるから、新団体交渉事項について団体交渉がなされたということは本件団体交渉事項についても団体交渉したことになるというべきであり、右によれば、新団体交渉事項について団体交渉がなされたことにより、本件命令の取り消しを求める利益は失われたものであり、本件控訴人の訴えは不適法というべきである。

2  原判決は、控訴人が本件団体交渉事項七号について、秋田支店の団体交渉権限外の事項であるとし、これについて団体交渉に応じなかった控訴人の行為を不当労働行為にあたらないとした。確かに、七号の交渉事項の中には、全社的に統一的に実施すべき事柄が含まれており、これらは支店長の権限外の交渉事項であったと解されるものの、他方、出向の具体的運用については支店長の権限内の事項であり、七号の交渉事項の中にもそのような運用面での支店長の権限内の事項が含まれているのであって、七号全体が支店における団体交渉権限外の事項であるとした原判決には、事実誤認がある。

また、補助参加人としては、本来、支店に対しては、支店長の権限内の事項に限って団体交渉の申入れをすべきであったと解されるが、補助参加人が七号について団体交渉を申し入れた当時、控訴人と補助参加人は、出向制度の実施を巡って厳しい対立関係にあったのみならず、従来から対立的な労使関係にあったという背景事情に照らすならば、補助参加人が出向制度についての一般的抽象的な事項を含む団体交渉の申入れをなしたことは緊急やむを得ないものであったというべきであり、これを拒否した控訴人の行為は不当労働行為に当たるというべきである。

3  以上によれば、本件命令は、本件団体交渉事項八号について団体交渉を命じた部分のみならず、七号について団体交渉を命じた部分についてもすべて適法であるが、既に控訴人には本件命令を取り消すべき利益がなく控訴人の本件訴えは不適法であるから、原判決中、被控訴人敗訴部分(本件命令のうち本件団体交渉事項七号についての団体交渉を命じた部分の取消請求を認容した部分)は、いずれにしろ取り消しを免れない。」

第三争点に対する判断

一  本件の事実経過について

本件の事実経過については、左記のとおり付加訂正するほかは、原判決の「第三 争点に対する判断」(原判決二四枚目裏八行目冒頭から五〇枚目表一一行目末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二四枚目裏一〇行目末尾の後に続けて、「第二三号証、第三七号証、」と付加し、二五枚目表六行目「第三号証、」の後に続けて、「原審における」と付加し、同七行目「同佐藤竹彦の各証言」の後に続けて、「、当審における証人原口宰の証言」と付加する。

2  原判決四七枚目表一行目末尾の後に続けて、以下のとおり付加する。

なお、新団体交渉事項八号の中には、「出向の説明会では出向者に対し出向先の就業規則等を配布されたい」(基本1、本件団体交渉事項八号の10「出向先の就業規則、規程など出向者に事前に提示されたい」と同旨)、「出向後、健康状態を害し、病気休暇を取っている者、または生活状況などの理由により、復職の申し出があった場合は、努めて応じること」(基本7、本件団体交渉事項七号の2(9)「出向継続が困難となった場合は、本人の希望に基づき復帰させること」と同旨)、「出向を終了し、JR会社への復帰発令においては、本人の希望を尊重すること」(基本10、本件団体交渉事項七号の2(5)「出向期間終了後は、出向前の職場、職名に復帰させること」及び「本件団体交渉事項八号の17「出向終了後の配属箇所は、出向前の職場とされたい」と同旨)、などの本件団体交渉事項と同旨の事項を含めて、出向に関する抽象的一般的事項が含まれていた。

3  原判決四八枚目裏八行目末尾の後に続けて、以下のとおり付加する。

なお、新団体交渉事項一九号の中には、「出向の人選については、組合所属による恣意的な人選はしないこと」(基本2、本件団体交渉事項八号の21「出向の発令にあたって組合間の差別をしないこと」と同旨)、「出向発令にあたっては、本人の同意…などを考慮した人選をすること」(基本5、本件団体交渉事項七号の2(2)「出向を命じる際、本人の同意を前提として強制、強要はしないこと」及び本件団体交渉事項八号の2「出向にあたっては本人の意思を尊重し、強制・強要にわたらないこと」と同旨)、「出向期間中、本人の健康状態、家庭事情などから出向を継続できない場合は、本人の希望を尊重しJRに復帰させること」(基本6、前記本件団体交渉事項七号の2(9)と同旨)、「出向説明会では、出向先就業規則を提示し」(基本8、前記本件団体交渉事項八号の10と同旨)、などの本件団体交渉事項と同旨の事項を含めて、出向に関する抽象的一般的事項が含まれていた。

4  原判決五〇枚目表一一行目の次に、行を改めて、以下のとおり付加する。

7 出向制度についての控訴人と国労及び補助参加人の間の労使関係の推移等

(一) 控訴人と国労東日本本部は、前記4(一四)記載のとおり、昭和六二年一〇月一六日、「出向先における一週平均労働時間数が四一時間一〇分を超える場合における賃金の特別措置に関する協定」を、同年一二月二八日には、「地域間異動の実施に関する覚書」及び「地域間異動に伴う賃金の措置に関する協定」を、それぞれ締結した。

(二) 控訴人と国労東日本本部は、平成二年三月七日、「定年延長等の実施に関する協定」を締結したが、これは、控訴人と同本部の双方が、組合員の定年を六〇歳と延長することを合意すると同時に、出向制度の存在を前提として、五五歳以上の組合員については原則として関連会社へ出向することを合意したものであった。

(三) 控訴人と本部は、平成三年七月三日、「出向の取扱いに関する協定」を締結したが、これは、本部が、「同意」「募集」を要件とせずに、通常の人事異動の一環として「出向」を行うことを了承した結果、締結されたものであり、具体的には、(1)控訴人が業務の必要により、就業規則第二八条に基づき、社員を関連会社又は団体等に出向させる場合の取扱いについては、出向規程によるほか、この協定に定めるところによることとし、出向制度の円滑な運営を図ることとする、(2)出向期間は原則として三年以内とする、なお、出向期間を延長する場合は、出向規程第三条に準じて取り扱う、(3)出向社員に対する賃金支給基準の決定にあたっては、出向先での業務内容、出向先の賃金水準等を勘案する、ことが合意されたものであった。

なお、右協定の内容は、控訴人が出向制度を実施するにあたって、各労働組合に提案し、東鉄労、鉄産労などの四労働組合との間では、出向制度実施に先立つ昭和六二年五月二八日に締結されたのに対し、国労はその締結を拒否した「出向の取扱いに関する協定」と、全く同一の内容のものであった。

(四) 被控訴人は、平成三年一〇月九日、「控訴人が新団体交渉事項八号及び一九号の団体交渉に応じたので本件命令はほぼ履行されたものと認められるから緊急命令申立ての必要性がなくなった」として、平成元年一二月一五日付けで申立てていた本件命令についての緊急命令の申立てを取り下げた。

二  争点1(取消の利益)について

1  被控訴人は、控訴人と補助参加人の新団体交渉事項は、本件団体交渉事項にかかる団体交渉申入れが拒否されていた当時から、新団体交渉事項にかかる団体交渉が行われるまでの間の労使関係の変化に対応して、本件団体交渉事項を分化発展させたものであるから、新団体交渉事項について団体交渉がなされたということは本件団体交渉事項についても団体交渉したことになるというべきであり、救済命令が、他の方法によって実現され、目的が達せられた場合にあたり、本件命令はその基礎を失うことにより、拘束力を失ったもので、控訴人において本件命令に従うべき義務は消滅しているというべきであるから、本件命令の取り消しを求める法律上の利益は失われたと主張している。

2  新団体交渉が行われた経緯と、団体交渉の内容に関して次の(一)ないし(三)の事実が認められる(前記一で認定したところを、便宜再記しながら判示する。次項以下も同じ。)。

(一) 本件命令が出された後の平成元年一二月二〇日、補助参加人は、控訴人秋田支店に対し、出向先の労働条件等に関し、文書で団体交渉を申し入れ、一旦文書を訂正した後、翌二一日、あらためて新団体交渉事項八号(原判決別紙(3))により団体交渉を求めた。これに対し、同支店も、出向先の具体的な労働条件、要望等が交渉事項の主体となっているとして交渉に応じることとし、労使の幹事間で日程を調整した上、平成二年二月一七日、交渉が開かれた。

この新団体交渉事項八号の中には、「出向の説明会では出向者に対し出向先の就業規則等を配布されたい」(基本1、本件団体交渉事項八号の10「出向先の就業規則、規程など出向者に事前に提示されたい」と同旨)、「出向後、健康状態を害し、病気休暇を取っている者、または生活状況などの理由により、復職の申し出があった場合は、努めて応じること」(基本7、本件団体交渉事項七号の2(9)「出向継続が困難となった場合は、本人の希望に基づき復帰させること」と同旨)、「出向を終了し、JR会社への復帰発令においては、本人の希望を尊重すること」(基本10、本件団体交渉事項七号の2(5)「出向期間終了後は、出向前の職場、職名に復帰させること」及び本件団体交渉事項八号の17「出向終了後の配属箇所は、出向前の職場とされたい」と同旨)、などの本件団体交渉事項と同旨の事項を含めて、出向に関する抽象的一般的事項が含まれていた。

団体交渉の席で、同支店は、基本について、(1)事前通知の際出向先の就労条件を書面で提示し、説明会でも話をしており、就業規則は企業秘密にもからむので個々に配付する考えはないが、他の方法については検討する、(2)勤務評定は社員管理の一環として行っており公表するものではないが、不利益な扱いはない、(3)出向先により資格を要する場合は、資格を有する者から人選し、資格のない場合は補助的な作業に就かせたり資格をとってもらったりしている、(4)特殊勤務手当はJR基準で支給している、(5)健康診断は出向先で実施し、著しく作業実態が異なる場合は必要により特殊健康診断を実施しているが、JRの健康診断を下回るものはない、(6)業務災害の認定は労働基準監督署であるが、業務上の災害については業務災害の扱いとして、事故防止の対策を立てており、事故防止懇談会を行う考えはない、(7)出向後健康状態を害するなどして復職を希望する場合は、出向先と協議して決定する、(8)年休の制度はJR基準であるが、取得手続等は出向先による、(9)通勤手当はJR基準である、(10)出向後は、出向先で得たノウハウを生かせる適材適所で配属先を決定する、(11)広域出向の復帰発令は、原則的には就業規則どおりだが、実態としてはできるだけ早く連絡する、(12)就労条件は十分明らかにしており、問題はないと考えるが、業務上の必要により変化が生じた場合は、出向先と協議して対応する、(13)秋田支店に相談コーナーを設けているほか、支店に来られない者については電話で対応しているなどと回答した。また、交渉においては、横手精工株式会社など出向先の会社の労働条件についても、補助参加人から、提案がなされ、出向先別に協議がなされた。

(二) 同年七月一二日、補助参加人は、控訴人秋田支社に対し、新団体交渉事項一九号(原判決別紙(4))により団体交渉を申し入れたところ、同支社も、団体交渉に応じることとし、幹事間で日程を調整し、同年八月七日に交渉が行われた。

この新団体交渉事項一九号の中にも、「出向の人選については、組合所属による恣意的な人選はしないこと」(基本2、本件団体交渉事項八号の21「出向の発令にあたって組合間の差別をしないこと」と同旨)、「出向発令にあたっては、本人の同意…などを考慮した人選をすること」(基本5、本件団体交渉事項七号の2(2)「出向を命じる際、本人の同意を前提として強制、強要はしないこと」及び本件団体交渉事項八号の2「出向にあたっては本人の意思を尊重し、強制・強要にわたらないこと」と同旨)、「出向期間中、本人の健康状態、家庭事情などから出向を継続できない場合は、本人の希望を尊重しJRに復帰させること」(基本6、前記本件団体交渉事項七号の2(9)と同旨)、「出向説明会では、出向先就業規則を提示し」(基本8、前記本件団体交渉事項八号の10と同旨)、などの本件団体交渉事項と同旨の事項を含めて、出向に関する抽象的一般的事項が含まれていた。

同支社は、基本について、(1)民間会社となって四年目を経過しているが、出向の目的にかわりはなく、定年延長制度に伴う出向先の確保、広域出向の開拓等も図っていきたい、(2)出向者は、受入れ会社の条件に基いて人選しており、恣意的な人選はない、(3)広域出向も通常の人事運用であり、出向終了時は通常七ないし一〇日、やむを得ない場合は五日前に事前通知している、(4)出向は出向先の条件に見合った人選をしており、復帰については面談等を通して総合的に判断している、出向先は必ずしも原告と関連性があるものとは限らない、(5)出向は通常の人事異動と同様であり、受入れ条件等から総合的判断で行っている、(6)本人の希望によって復帰させることはないが、健康状態や医師との相談によって判断する、(7)現場長と連携をとって説明するよう指導しているが、すべてについて説明することはできないので、説明会等で理解してもらいたい、パンフレットの配付等もできる範囲で行う、(8)就業規則は企業秘密であり、規則の提示等は困難である、(9)相談コーナーを設けるなどしてアフターケアに努めている、(10)定年延長の出向も通常の出向と同様であるが、年齢と労働条件は考慮し、必ずしも通勤できる範囲とは限らないが現在の出向は配慮している、本人の希望だけで出向先の変更はできないし、原則として定年まで変更はないが、出向先の経営状況によって出向契約が破棄されるような場合は、新たに発令する、定年延長の意思表示の際本人と面談し、出向先の希望を聞きながら発令している旨答えた。補助参加人は、右(3)につき復帰先によっては住宅事情の変化が伴うので、就業規則にとらわれず事前の打診が必要ではないか、右(5)につき本人の希望を尊重することはできないか、自動車通勤の場合でも実情に合わない通勤手当しか支給されていないから、JR基準(通勤手当)の範囲内で人選してほしい、右(6)につき出向先の形態、家族の病状、治療条件等によっては家族に著しい負担を強いる場合がある等と質したところ、同支店は、右(3)につき、復帰先の決定については、本人との面談や希望調査は行っており、ほとんどの場合はもとの職場になっているが、要員需給の関係から必ずしも希望職場、もとの職場にはならないものの、復帰する職場は本人が知っている場合もあり、大きな問題にはなっていない、右(5)につき場合によっては希望者が特定の出向先に殺到することもあるし、そうした場合もいちいち希望を尊重してはいられない、原告に勤務している場合の通勤手当は通勤手段等を考慮しておらず、出向に限った扱いはできない、右(6)につき指摘のような場合はケースによって判断するなどと答えた。その後、各出向先ごとの交渉に入り、一部は、同年九月五日に持ち越して交渉が行われた。

(三) 労使関係の変化

右のように新団体交渉が持たれる背景として、出向問題に関する控訴人と補助参加人との労使関係に関する変化があったことが認められる。

(1) すなわち、補助参加人は、本件救済申立事件の審理中である昭和六二年一〇月一日、秋田支店に対し、出向に関する事項を含む八項目について団体交渉を申し入れ、同月三〇日及び一一月七日の交渉が行われたが、配転及び出向に関する事項については触れられなかった。また、同年一二月八日、ニホンケイセキ株式会社に対する出向についての団体交渉を申し入れたのに対しても、交渉は行われなかった。昭和六三年三月九日、補助参加人が改めて配転及び出向について団体交渉を求めたことにも、控訴人は応じなかった。わずかに、同年八月一〇日、若林隆彦の出向をめぐる団体交渉が行われ(秋田支店としては、本来苦情処理制度で扱うべき事項であるが、労働協約が失効のため、交渉に応じたものである。)、事前の公募、打診の有無、出向先の労働条件の説明方法、同人を選定した理由、出向終了後の原職復帰、出向先の労働時間等について交渉がなされた程度であった。

(2) しかし、本件命令が出される前に、控訴人と本部は、同年一一月二八日、労使間の取扱いに関する協約(有効期間平成二年九月三〇日まで)を締結した。その中では、(1)団体交渉は、本社及び秋田支店等の地方において、出向の基準に関する事項等について行うこと、(2)組合員が、労働協約及び就業規則等の適用について苦情を有する場合は、後記(3)の場合を除き、その解決を苦情処理会議に請求することができ、苦情申告者、会社及び組合は、苦情処理の結果を遵守しなければならないこと、(3)組合員が、本人の出向等についての事前通知内容について苦情を有する場合は、その解決を簡易苦情処理会議に請求することができ、苦情申告者、会社及び組合は、簡易苦情処理の結果を遵守しなければならないことなど、おおむね六二年協約と同様の内容が定められた。

昭和六三年一二月一五日、控訴人秋田支店と補助参加人は、労使間の取扱いに関する協約の適用に関する覚書を交換したが、その前文でも、右両者は秋田支店固有の事柄について協議等を行うものとする旨定められた。

(3) さらに、その後、控訴人と本部は、平成三年七月三日、「出向の取扱いに関する協定」を締結した。これは、本部が、「同意」「募集」を要件とせずに、通常の人事異動の一環として「出向」を行うことを了承した結果、締結されたものである。その内容は、(1)控訴人が業務の必要により、就業規則二八条に基づき、社員を関連会社又は団体等に出向させる場合の取扱いについては、出向規程によるほか、この協定に定めるところによることとし、出向制度の円滑な運営を図ることとする、(2)出向期間は原則として三年以内とする、なお、出向期間を延長する場合は、出向規程第三条に準じて取り扱う、(3)出向社員に対する賃金支給基準の決定にあたっては、出向先での業務内容、出向先の賃金水準等を勘案する、というものであった。

なお、右協定の内容は、控訴人が出向制度を実施するにあたって、各労働組合に提案し、東鉄労、鉄産労などの四労働組合との間では、出向制度実施に先立つ昭和六二年五月二八日に締結されたのに対し、国労がその締結を拒否した「出向の取扱いに関する協定」と、全く同一の内容のものであった。

以上のように、昭和六二年一〇月ころから平成二年七月ころまでの経過を見ると、控訴人と本部の間において、出向制度の存在を前提とする協定が順次締結され、暫定的ではあるにしても労働協約も締結され、本社及び秋田支店等の地方において、出向の基準に関する事項等について団体交渉を行うように定められ、その結果、前示のように、控訴人は、秋田支店において、補助参加人との間の新団体交渉事項についての団体交渉に応ずるようになり、控訴人は、出向制度に関する補助参加人からの団体交渉の申入れに対しては、あえてこれに異議を述べずに団体交渉に応じるという扱いをするようになっていたと理解することができる。

そうだとすると、出向制度をめぐる控訴人と本部及び補助参加人間の労使関係は、本件命令申立時における激しい対立関係が、時間の経過とともに徐々に薄れて、むしろ出向制度の存在を前提とした協力関係にすら変わってきており、出向問題に関する労使の調整は、出向に関する一般的・抽象的な基準の確立ではなく、各地における出向を前提とした個別的な問題の調整(もちろん個別的な問題の調整は、場合によって一般的な基準の確認あるいは見直しに発展する場合もあるから、個別と一般の区別は相対的・流動的であるといえる。)に移行していたとみることができ、新団体交渉事項は、この段階における出向に関する労使間の紛争の基本的な問題の解決に向けられたものであり、それに基づいた団体交渉も控訴人の抵抗なく開催される雰囲気が生じたこと、さらには、その後において平成三年の「出向の取扱いに関する協定」が締結されたことなどにより、補助参加人が、本件命令の申立に際して、その救済の必要性の根拠とし、本件命令もその発令の根拠としていた、出向制度に関する控訴人支店における労使間の対立関係は、団体交渉の実施という点に関する限り、ほぼ解消されるにいたったものと理解するのが相当である。

4  本件命令について

(一) 本件命令の主文は、控訴人に対して、出向制度に関する本件団体交渉事項七号及び八号のすべてについて団体交渉を命じていて、何ら具体的な限定がなされていないから、形式的に解釈すれば、控訴人が主張するように、今後控訴人が行う一切の出向に関する一般的抽象的事項について団体交渉を命じたものと解する余地がないわけではない。そのために、控訴人は、新団体交渉事項は、一般的、抽象的な本件団体交渉事項とは異なっており、出向は本人の同意を前提にする、あるいは公募によるというような制度の根幹に関している本件団体交渉の目的が実現された場合にはあたらない、と主張している。

(二) しかし、被控訴人の本件命令は、団体交渉事項の文言もさることながら、控訴人秋田支店における出向に関する紛争の解決手段として、すみやかに控訴人に補助参加人との団体交渉に応じるように命じている点に主眼が置かれていたものと解するのが相当である。

すなわち、本件命令に至るまでには、次のような経緯があった。

(1) 控訴人は、新会社発足に当たり、余剰人員対策と社員の意識改革が重要であるとの認識に立ち、積極的に社員の出向を実施することを企図し、従来国鉄で行われていた同意を要件とする派遣制度を廃し、配置転換と同等のものとして出向を扱う出向制度を就業規則に設け、新会社発足後間もない昭和六二年六月から全社的に出向を実施しようとしたが、これに対して本部は、このような出向に反対する立場から、同年五月一二日に、出向は団体交渉により決定すること、団体交渉により出向の基準が決定されるまでは出向を行わないことを求める団体交渉の申入れをし、以後控訴人本社と本部との間で出向につき公募、同意を要件とするか否かを中心とした団体交渉が重ねられるようになった。補助参加人もこれを受けて、同月一四日、「出向に対する緊急の解明と要求について」と題する書面で、控訴人の出向制度の解明とそれに対する要求を含む本件団体交渉事項七号につき団体交渉の申し入れを行った。その内容は、主として出向者の選定は公募を原則とし、かつ国鉄時代の派遣制度と同様に本人の同意を要件とすることを要求するものであった。

(2) しかし、控訴人の全体的な方針に変わりはなく、控訴人秋田支店においては、具体的な出向先を決定し、出向先会社名、業務内容、出向予定者数及び期間を記載した「出向の概要について」と題する書面を組合に交付するとともに、出向予定者に対する事前通知に際して書面で出向先の概要を知らせる扱いをとり、同年六月四日、同支店長名で、国労組合員六名を含む同支店の一〇名の社員に対し、同月一九日付けの出向の事前通知を行った。そして、同月二一日、同支店は、右事前通知をした者に対し、説明会を開くとともに、出向制度の意義及び対象者、出向の目的、発令、期間、所属、賃金の取扱い、勤務、復帰箇所、年休の取扱い、出向期間中の勤続年数、表彰・懲戒、業務災害・通勤災害、被服類、福利・厚生、共済組合関係及び共済貯金の取扱い、旅費並びに乗車証等について記載した出向のしおりを配付して、労働条件等の説明をしたほか、出向についての相談に応ずる担当者を紹介する相談員のご案内と題する書面を配付した。そして、同月一九日、同支店長名で、右の被通知者らに対し、出向の発令が行われたが、この中にニホンケイセキ株式会社への出向者二名(いずれも国労組合員)が含まれていた。また、同支店長は、同月一六日、国労組合員八名を含む同支店の一六名の社員に対し、同年七月一日付けの出向の事前通知をし、同年七月一日、同支店長名で、右の被通知者らに対し、出向の発令をした。

補助参加人は、この間、同年六月九日、被控訴人に対し、出向に係る団体交渉の開催についてあっせんの申立てを行い、同支店に対し、右のあっせんの結果が出るまで出向を延期すること等を申し入れた。その結果、被控訴人において、同月二〇日第一回のあっせんが行われ、同月二四日、補助参加人はあっせんの事項を出向命令の撤回に変更し、同月二九日、第二回のあっせんが行われたが、労使双方の歩み寄りがみられず、あっせんは打ち切られた。また、この間、出向に関して、控訴人の苦情処理制度を利用した者もいたが、裁定結果はいずれも却下であった。

このように、補助参加人の反対にもかかわらず、秋田支店においては、出向を現実に実行し始めたので、補助参加人は、同月三〇日、秋田支店長に対し「出向に対する細部にわたる解明要求について」と題する書面で、本件団体交渉事項八号につき団体交渉の申し入れを行った。その申入書には、出向について、「秋田支店固有の問題も山積し、秋田支店で解消しなければならない部分も多い。」「出向先の就労条件の細部にわたる説明、出向の人選基準、事前通知のあり方、出向終了後の配属等々、不明確な問題がある。」などとして、秋田支店における出向問題解決のために、団体交渉の開催を申し入れる旨の記載があった。しかし、控訴人は、本社における交渉事項であるとして、これに応じなかった。

(3) そのため、補助参加人は、同年七月二日、被控訴人に対し、控訴人及び控訴人秋田支店を被申立人として、被申立人が正当な理由なく本件各団体交渉事項七及び八号についての団体交渉を拒否し、国労及びその組合員を敵視する姿勢で出向制度を名目にして国労組合員を控訴人から排除し、国労組織の弱体化と脱退攻撃に悪用しており、労働組合法七条一ないし三号の不当労働行為に該当するとして、「被申立人は、<1>補助参加人組合員に対する同年六月一九日及び七月一日発令の出向並びに六月一九日付けの出向を命ずる事前通知を撤回し、新たな出向の発令をしてはならない、<2>補助参加人組合から同年五月一四日及び六月三〇日に提出されている本件団体交渉事項の議題につき、早急に団体交渉を開催すること、<3>このたびの不当労働行為の事実について陳謝し、補助参加人に対する陳謝文を、本命令後、三日以内に手交するとともに、同文のものを縦一メートル、横一・五メートルの白紙に鮮明に墨書きし、控訴人秋田支店入口及び全職場の見やすい場所に、一〇日間掲示しなければならない」旨の救済命令を求める申立てをした(秋地労委同年(不)第二号)。そして、補助参加人は、同年七月一七日、審議促進と救済命令の早期認定の必要から、右の申し立てのうち団体交渉の開催に関する申立てを分離し、審議を早めるように上申した。

被控訴人は、右申立てから、出向に関する部分を分離し、団体交渉拒否に関する部分(同号―一)について審査を行い、公益委員会議の合議を経て、平成元年九月二六日、<1>控訴人に対し本件団体交渉事項についてのすみやかな団体交渉を命じ、<2>陳謝文の手交及び掲示の申立てについては、右<1>の救済で足りるとしてこれを棄却し、<3>控訴人秋田支店は、控訴人の組織の構成部分に過ぎず、法律上独立した権利主体ではないから、使用者には該当せず、本件申立は控訴人に対してなされたものと解して、控訴人のみを被申立人として表示する旨の本件命令をなした。

本件命令が出された時点は、申し立て後すでに二年余が経過し、控訴人の出向の運用は定着して、本件申立当時出向していた者は、控訴人に復帰していた状態であり、さらに、前記のように、昭和六三年一一月には、控訴人と本部間に、労働協約が締結され、その中で、本社及び秋田支店等の地方において、出向の基準に関する事項等について団体交渉を行うことが定められ、同年一二月一五日には、控訴人秋田支店と補助参加人が、労使間の取扱いに関する協約の適用に関する覚書を交換し、その前文でも、右両者は秋田支店固有の事柄について協議等を行うものとする旨定められていたという事態の推移があったのにかかわらず、なお秋田支店と補助参加人の間では出向に関する団体交渉が開催されていないという状態であった。

(三) 右に認定したような控訴人と本部あるいは補助参加人間の労使関係の経緯を見ると、本件命令がなされた当時は、国鉄が民営化して控訴人による新規の出向が開始されることに伴って労使間の新しい緊張が生じ、その解決のために一般的、抽象的な基準の設定が必要であるとして本件団体交渉事項七号が申し入れられた時代から移って、出向の運用が積み重ねられ、その具体的な運用に関して、支店単位で出向者の選択、その意思確認の方法、出向先の労働条件などについて、労使間の意志疎通が望まれる段階にきており、補助参加人も強くそれを望んでいたのにもかかわらず、控訴人において地方による団体交渉事項にあたるとは解されないという態度に終始していたために、被控訴人として、その調整のために、ともかく秋田支店と補助参加人の間で、団体交渉を開くことが望ましいという考えがあって、本件命令を出したことが理解できるというべきである。

このことは、本件命令が、その理由の中で、補助参加人と本部が上下関係にある組合でありながら互いに交渉権を留保している関係にあることを前提に、本部以外の四労働組合が既に「出向の取扱いに関する協定」を締結しているにもかかわらず、国労関係では、中央段階での交渉が行き詰まった状態のまま出向制度が実施され、ニホンケイセキ株式会社への出向という具体的な問題も生じており、さらに、被控訴人によるあっせんも打ち切りとなった状況であったことを考慮するならば、補助参加人が、支店と早急に何らかの形で出向に関して団体交渉を持つべく、本件団体交渉事項八号のように、一般抽象的な団体交渉事項を記載して申し入れたとしても、むしろ緊急やむを得なかったと是認されるべきである旨説示し、申入書記載事項を形式的、一方的に解釈して、交渉申入れ事項が、本社と本部の間で行われるべき事項であり、かつ交渉中であるということで、支店が、当時、出向に関して一回も申立人と団体交渉を行わなかったことの正当な理由にはならない、と説示していること、あるいは、申入書には一般抽象的な記載部分もあり、申し入れの時から二年以上の年月が経過していることなどを考慮すると、当事者の団体交渉を通じて整理調整されるべき交渉事項の部分もあると判断される旨説示していることからも、十分に読みとれるというべきである。

そうだとすると、本件命令の主文から、控訴人に対して、今後控訴人が行う一切の出向に関する一般的抽象的事項について団体交渉を命じたものと解する余地がないわけではないものの(しかし、もともと、出向制度のような就業規則中に規定された制度の抽象的一般的事項について未来永劫に渡って団体交渉を命じる救済命令の必要性のある場合は、常識的にいって想定しにくいものであって、それのみをとっても、本件命令をそのように形式的に解釈することが妥当でないことは明らかである。)、本件命令を、その理由中の判断と本件命令が出されるに至るまでの前記経緯から総合検討すると、本件命令は、国鉄の分割民営化が実施されて控訴人が設立された直後に、旧国鉄時代の派遣制度とは全く異なる出向制度が実施され、これに反対する本部及び補助参加人と控訴人との労使間の対立が解消される見通しのたたなかった状況のもとにおいて、補助参加人の申し入れた団体交渉事項の形式的文言は出向制度についての一般的抽象的事項であって、本来全社的に統一的に解決すべき事項であっても、現に出向制度が実施され、現実に出向を実施していたのが支店であることから、少なくとも、支店における出向の個別具体的事例を通じてなら、支店レベルでも出向の運用の調整を図ることは十分に可能であるとの判断のもとに、本件団体交渉事項七号のみならず八号の団体交渉申入れについても、右各団体交渉申入書中の形式的文言に固執して、いずれも出向制度の一般的抽象的事項についての団交申入れであって支店での団体交渉事項には当たらない(あるいは、そもそも団体交渉事項ではない)と一方的に判断し、終始一貫して支店での団体交渉に一切応じなかった控訴人の一連の態度をとらえて、正当な理由のない団体交渉拒否として不当労働行為にあたると判断し、本件命令発令時においても控訴人の右態度に基本的な変更がなかったために、救済の必要性があるとして、その救済のために支店での団体交渉を命じたものと解すべきものである。

そうだとすれば、本件命令の意図するところは、本件団体交渉事項七号及び八号の事項について将来控訴人がなすすべての出向に関して団体交渉を命ずるまでの意味がないことはもちろんのこと、本件団体交渉事項七号及び八号の事項について各別の団体交渉を命じたものでもなく、また、本件団体交渉事項の形式的文言どおりの純粋な意味での出向制度の一般的抽象的事項について団体交渉を命じたものでもなく(純粋な意味での出向制度の一般的抽象的事項が本来本社本部間での団体交渉で解決されるべき事柄であることは明らかであり、本件命令もこれを当然の前提としているものと解される。)、少なくとも、その主旨とするところは、前述した控訴人と本部及び補助参加人との出向制度をめぐる労使関係の対立状況を前提として、このような労使関係が継続する限りにおいて、支店においても、少なくとも、支店における出向の個別具体的な事例を通じて出向制度の運用の調整を図ることは可能であるとして、この意味での団体交渉を命じたものと解すべきものである。被控訴人が本件命令において控訴人の申立事項をそのまま引用し、当時の変化した労使関係の具体的調整に必要な団体交渉事項を明示しなかったことについては、措辞不十分の点があったことは確かであるものの、本件命令に至る経緯及び本件命令の理由中の判断を無視し、本件命令を形式的に解釈するのは相当でない。

前記のように、被控訴人が、平成三年一〇月九日、「控訴人が新団体交渉事項八号及び一九号の団体交渉に応じたので本件命令はほぼ履行されたものと認められるから緊急命令申立ての必要性がなくなった」として、本件命令についての緊急命令の申立てを取り下げるにいたったことも、本件命令の目的が、支店と補助参加人の出向に関する実質的な紛争の解決の手段としての団体交渉の開催ということにあったということを理解させるものである。

4  本件命令取消の利益について

(一) 使用者に対して特定の事項についての団体交渉を命ずる旨の救済命令が発せられた後に、右救済命令が前提としていた労使関係の対立が解消したり、救済を求めていた組合自体が方針を変更したために、当該団体交渉事項についての団体交渉の必要性が失われた場合や、現実に労使間で団体交渉が行われ、右団体交渉事項が形式的に見れば必ずしも救済命令が命じた事項とは同一でない場合であっても、命令発令後の状況の変化や労使関係の変遷の結果、右団体交渉がなされたことによって、実質的に見れば救済命令が命じたとおりの団体交渉がなされた場合と同様の救済がなされたと判断される場合には、当該救済命令はその発令の実質的な根拠を失ったものというべきであり、他方、そのような場合には、もはや労働者側としても当該団体交渉事項について団体交渉を求める救済利益はなくなっているものというべきであるから、救済命令の履行以外の方法によって救済命令の内容が実現された場合と同様に解して、救済命令はその基礎を失い、その拘束力を失うものと解するのが相当である。

(二) これを本件についてみると、出向制度を巡る控訴人と本部及び補助参加人間の労使関係が、本件命令申立当時の激しい対立関係から、出向制度の存在を前提とした協力関係に変遷し、遅くとも平成三年の「出向の取扱いに関する協定」が締結された時点では、補助参加人が、本件命令の申立に際して、その救済の必要性の根拠とし、本件命令もその発令の根拠としていた、出向制度についての労使間の対立関係は、結果としてほぼ解消されたことは前示のとおりであるが、このように労使間の対立関係が解消に向かっている最中である平成二年中に、控訴人は、秋田支店及び支社において、補助参加人の申入れに応じて出向制度に関する新団体交渉事項について団体交渉に応じているのであり、新団体交渉事項は、本件団体交渉事項と全く同一ではないものの、右団体交渉事項と同種の事項を多数含んでおり、基本的には、支店における出向の個別具体的な事例を通じて出向制度の運用の調整を図ろうとしたものと解されるから(これはまさに本件命令が意図したところである。)、右の団体交渉の実現・定着により、本件命令が意図するところが実質的には実現され、補助参加人としては、本件命令による団体交渉を受けたのと同様の救済を受けたものと評価できるものというべきである。ちなみに、本件命令の申立人たる補助参加人自身も、新団体交渉事項にかかる団体交渉がなされたことにより、実質的には、本件命令の履行を受けた場合と同等の救済を受けたものと考え、実質的に本件命令申立ての目的を達したものとして、もはや本件命令による救済利益のないことを自認しているのである。

(三) 以上によれば、前記のとおりの労使関係の推移を背景に新団体交渉事項についての団体交渉がなされたことにより、補助参加人は、遅くとも平成三年までには、本件命令による団体交渉を受けたのと同様の救済を受けたから、救済命令の履行以外の方法によって命令の内容が実現された場合と同様に、本件命令はその基礎を失い、その拘束力を失ったものと解すべきものである。控訴人が、本件命令が包括的に補助参加人組合員に対する一切の出向に適用される趣旨であり、本件命令が存在する限り、控訴人が実施する出向に際し、団体交渉応諾の義務を負うとしていることは、本件命令の拘束力を不当に拡大して解釈するものとして採用できない。

(四) 以上検討したところによれば、本件命令は、どんなに遅くとも平成三年中には、行政処分としての効力を失ったものというべきであるから、もはや控訴人には本件命令を履行すべき公法上の義務はなく、控訴人には、本件命令の取り消しを求める法律上の利益はないものというべきである。

三  以上の次第で、控訴人には、本件命令の取り消しを求める法律上の利益はないから、その余の点について判断するまでもなく、本件訴えは不適法として却下を免れない。

第四  以上によれば、控訴人の本件訴えは不適法であり、却下されるべきであるところ、本件訴えについて本案の判断をした原判決は相当でないから、これを取り消し、主文のとおり判決する。

(裁判官 守屋克彦 丸地明子 大久保正道)

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